Moonlight scenery

     “The profile of the seamaid
 


地中海に面した小さな半島とその周辺の群島からなる、
それはそれは小さな王国がありまして。
地中海を挟んでの北と南、
欧州諸国とも砂漠の地域とも接しておいでの、
なかなかに微妙な位置にある独立国家だが、
特筆すべき点はといえば、
その立国時から今現在まで、結構な長さの歴史を持つ国でありながら、
各地各所の様々な民族が、立ったり派兵されたり、
凌駕したり奪われたりをさんざん繰り返したところの、
欧州の混乱にも、砂漠の国や地域のきな臭さにも、
一度たりとも巻き込まれたことがないというところ。
あまりに小さすぎて産業も知れており、凌駕するほどの魅力がなかったか、
同じ理由から脅威にならずと見做されての相手にされなかったか。

  どちらにしても、
  そうそう永の間、見向きもされぬはおかしな話、ですって?

  じゃあ、ここだけの話を特別にお聞かせしましょうか?

思し召しの通り、
自国領土や覇権の拡大にあたり、
行き掛けの駄賃代わりにと、試しにちょっかいかけてくる輩が、
これまでの何百年という歴史の中、
実は、全くの全然 いなかった…って訳でも、
ないらしかったのだけれども。
だっていうのに、
結果として、居なかったことになっているのは。
手を出したことさえ思い出したかないとする、
向こう様からの意向あっての処理であり。
お互いで“無かったこと”にしたがため、
特に苦情も批判も出ぬまま、
今の今まで“それ”で通って来た、というワケで。


 「デタラメなんだか、大人の事情の情けなさってところなんだか。」
 「お、ゾロには珍しくも大人のご意見だな。」
 「言っとくが、お前に比べりゃ ずんと大人なんだ、俺はな。」
 「おう、知ってるぞ。俺よかずっと年上だもんな。」
 「………そうじゃなくて。」


もっと内包的な意味があってだなと、
最初にずぼらしたのは自分の側なくせに、
こんの判らんチンがと言い直しかかった護衛官殿。
だがだが、すぐの間近で“にゃは〜っvv”と、
それは無邪気に微笑っていた王子様だったお顔を見るにつけ、

  “……………ま、いっか。”

もっともっと色んなナイショがあるやもしれない“裏”を、
一体どこまで知っているやら。
十中八九、何にも知らないのだろう彼の、
それは屈託のない笑顔に免じて。
屈強精悍な風貌のそのまんま、どこか頑迷な彼には珍しくも、
“お後がよろしいようで”という格好で、
話を締めくくった緑頭の守護神様だったりし。
腹心様のそんな腹積もりになぞ気づかぬか、
日本贔屓だった先代王が植えたらしい、
椿やサザンカの、ちょっとしたパーテーション並の生け垣が、
迷路のように並ぶ中。
つないだ手を頭上へ高々と挙げ、
“う〜んっ”と背伸びをして見せつつ、
慣れた空間、のんびりとした歩調でほてほてと歩む。

 「お〜、いい風だvv」

本来なら皇太子のための翡翠宮は、
防犯上、王宮内の最も深いところに位置する内宮であり。
とはいえ、がっちがちの警護は風雅ではないとの、
ゆかしさをも生かされてのこと、
そのぐるりは瑞々しい木々を配した庭園に囲まれており。
ここいら特有の、乾燥気味の冬が明け、
雨催いの春に突入する寸前の僅かな頃合い。
まだまだ新緑とも呼べぬほどの、
それでも柔らかな緑がちらほらしつつある、
広々とした丘の上の庭園を、
専属の護衛官一人だけを連れて、
のんびりと歩んでいる第二王子様なのは。
新年度の幕が開くのと同時、
あちこちへと顔だしが始まる外交への下準備、
ぎっちりと組まれていた事前学習のカリキュラムを終えての、
単なる羽根のばし、息抜きみたいなものだったのだけれども。

 「…お、サンジだ。」

お傍衆の一人、隋臣長の姿が向かう先に見えたのへ、
おややぁ?と小首を傾げた王子であり。

 「サ…、っと。 あやや。」

声を掛ける間合いを微妙に逃して、
足早に執務棟の方へと立ち去ってしまった金髪痩躯の君だったのへ、

 「何だよ、逃げたみたいじゃんか。」

失敬だなぁと頬を膨らませたルフィだったが、

 「いやいや、ただ単に時間が無かっただけだろさ。」

王子のお傍衆の執務シフトは、毎朝しっかり刷り合わせミーティングがあって、
何かあったとき、誰がどこにいるかを把握しておくのが基本なので。
受信のみならず、配信作業でもメールチェックする時間になってたの、
お仲間内のゾロがついついフォロー。

 「お、珍っずらしいな。サンジを庇うなんて。」
 「そんなんじゃねえさ。」

さっそく揶揄されたものの、平然というお顔で流した護衛官殿だったのは。
実際問題として判り切ってた背景だったのと、

 “戻る奴を わざわざ取っ捕まえることもあるまいよ。”

直訳すると、とっととどっか行け、でしょうか?

 “〜〜〜〜うっせぇなっ。///////”←あvv

いつまでもこだわること自体、情が残ってしまうよで。
ふんとこっそり鼻での息をついてから、
件の金髪の隋臣長がいたらしき、
白亜の四阿
(あずまや)へと歩みを進めたルフィを追った。
足元には手入れされた芝草が通年で緑を保つ庭園には、
その陽あたりのいい ところどころに、
屋根とベンチをしつらえた休憩用の四阿が配置されてもいて。
いつだったか、それらの屋根を空中滑空で渡り歩いての大逃亡、
外国から来た盗賊に、
王子が攫われかかったことも そういやあったような。
(苦笑)
そんな四阿たちは1つ1つ意匠が異なっての、
白亜のギリシャ神殿風だったり、フランス離宮風だったりするのだが。

 「お…。」

ルフィが歩みを進めた先にあったのは、
それは繊細な彫刻や浮き彫りがなされた装飾も可憐な、

 「そっか、人魚の家か。」

戸口にあたる幅の空いた柱に手をつき、
そっかそっかとひとしきり納得している王子へ、
どうしてかと聞く必要もない辺りが、
護衛官殿の王宮への馴染みっぷりを如実に表してもおり。

 「そこまで女好きなんか、あいつはよ。」
 「だって美人だしvv」

その四阿もまた、大理石にて組まれた白亜の庵で。
波模様や唐草模様が刻まれた柱が支える天蓋の内側、
中に入って見上げた天井部には、
まだ少女というお顔の人魚姫が彫られているので。
この庭へと出入りする人々の間では
“人魚の四阿”“人魚の家”などと呼ばれており。

 「そういや、この国って イ○ラム教じゃあ…。」
 「ん〜? 別に、そういうワケじゃねぇぞ?」

大昔に支配下にあったとかいう影響が、
礼服とか国の儀式の形式に残ってるだけ。
ウチは“政教分離”とかいうのをてってーしていて、
国として何を信仰してるって格好で決めてはないぞと。
さすが王子様、そういうことはしっかり知ってらしたようで。

 「だから、人魚とかわんこの像があっても問題ないんだなvv」
 「そうかい、そうかい。」

知ってる人は御存知なこと。
イスラム教では偶像崇拝を禁じていて、
それを神様の姿だとする像はもとより、
単なる装飾の絵やデザインにでさえ、
人や生き物は使ってはならないとされている。
あのタージマハルも、
その壁などの装飾は、デザインされた文字や草花のみであり。
ただの飾りであれ、人の姿した何かなぞ据えたりした日にゃ、
暴動が起きかねぬレベルの、許されざる冒涜にあたるのだそうな。
だったなら、何でまた人魚の像が堂々とあるのだと訊いたゾロであり、
それへ“ウチは違うぞ”との注釈を返したルフィだったので念のため。

 「…にしても。」

国としては海の国でも、この王宮からは随分と遠いのになと。
幻想的な装飾のモチーフを見上げ、
何だか意外だとゾロが呟いたのも、まま判らんではないような。
東宮のための宮に少女の姿した人魚像というのも意外だったし、
運だのツキだのを司るような守護の女神ならともかく、
おとぎ話の題材に過ぎない人魚を飾るというのは、
見ようによっては ちょっとばかり幼稚なことかも。

 “よくせきの意味でもないと…。”

くどいようだが、これが内親王様の宮なら問題はないのだが、
次代の王様、皇太子の宮へ、
妖しい歌声で船乗りを惑わすとか、
真っ赤なロウソク灯して船を沈めるとか、
あんまりいい話を聞かぬ精霊の像を持ち込むとは。

 「……なぁんて思ってるのかもしんないけど。」
 「どあっ!」

う〜んと唸ってたそのまんま、
天井を見上げていた視線を戻した すぐの懐ろ。
一体いつの間にやら、王子様がひたりと張りついていて。
それへと驚いた護衛官殿が、
いい反射で身をすくませ、そのまま飛び退きかかったものの、

 「ウチの国じゃあ、人魚は縁起のいい護り神様だかんなvv」

いつからかは知らねぇけどさ、
母ちゃんも父ちゃんも、エースもサンジもナミも、
人魚にまつわる何かを身につけておくと、
水の難儀から守ってくれるって話を信じてるしな、と。
それは屈託のない、
限りなく無垢な笑みにて言ってのけた王子様だったのへ、

 “ う"………。/////// ”

一体 誰への言い訳なんだか、
ぬかった、こいつのこのお顔で言われたら、
どんなあり得ないことだって
信じちまうってもんじゃねぇかよなと。
人魚姫の可憐さにはまったく動じないくせに、
こちらの胸板へ頬や顎先くっつけて
“なあなあ”と甘えかかる誰か様の
無意識な態度の破壊的な威力をこそ、
見ず知らずの人魚姫より、よほどに威力あんぞと思い知ってしまった、
世が世なら名うての刺客、傭兵部隊の切り札だった大剣豪。
守護の人魚も自分には、落ち着きなくさす小悪魔だったかもなんて、
とんだ罰当たりなことまで思ってしまった青少年っぽさへ、
天井の人魚様、心なしか くすすと微笑まれたような気がした、
春先の安泰な昼下がりでござったそうな。





  〜Fine〜  11.04.08.

イラスト素材はこちらよりお借りしました → RoseMoon サマヘ


  *アニワンでは
   悪夢のマリンフォード篇も終盤へと突入し、
   (ちなみに、関西では10日のお話が“トリコ”とのコラボvv)
   女帝海賊ハンコック様が、
   それは素晴らしいツンデレぶりにて、
   船長を案じてくれており。
   ルフィスキーな私をワクワクさせてくれておりますがvv
   (ゾロルラーには あるまじき発言をお許しください。)
   (ルフィが好かれたり大事にされたりするとワケもなく萌えるので。)

   何ですか、本誌では別口の、
   それはキュートで Morlin.好みな人魚姫様が、
   ルフィとの道行きを決めておいでだとかvv
   愛らしくて天然な箱入り娘…だなんてvvv
   19になっても愛らしい船長とともに…だなんて、
   そんな百合コンビで魚人エリアを爆走中だなんて、
   なんてまあまあ 危ないことをっ!(…そろそろ黙れ)
   早くアニメが追いつかないかなと、
   不謹慎極まりないことを思ってしまった、
   年甲斐のないおばさんだったのでありました。

  *ちなみに、このお話の舞台になってるR王国は、
   かつての大昔にトルコ系の王国の支配下にあった地域の名残り、
   衣装や行事、儀式なんかに、
   イスラムとかアラブっぽい匂いが残っておりますが。

    「だって俺なんて、浄土真宗だし。」
    「…それは嘘だろ、シャンクス。」

   宗教でふざけると仏罰が当たるぞ…とか、
   ルフィにわざと叱られてそうです。
(笑)

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めるふぉvv

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